福岡地方裁判所 昭和24年(行)69号 判決
原告 坂田広次
被告 福岡県知事
一、主 文
被告が原告に対して爲した昭和二十三年十月十五日附第一種事業税金三千三百七十五円の賦課処分を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として被告は原告の昭和二十二年における仕事を地方税法第六十三條第二項第八号の請負業と認め、昭和二十三年十月十五日附第一種事業税金三千七百五十円を賦課し、同月十七日その旨の令書を原告に交付した。然し右賦課処分は後記の理由により違法たるを免れないものである故、原告から被告に対し同月二十七日異議申立をしたところ、被告は同年十二月四日右のうち金三百七十五円を減額する旨の決定をしたのみで全体として課税処分の取消をしない。然しながら第一種事業税の課税物件は地方税法第六十三條第二項各号に定める事業所得であつて、これ等の事業外の所得については、第一種事業税を賦課し得ないものであるところ、原告は昭和二十二年中請負業その他第一種事業税の対象となるような如何なる事業をも営んだことはない。すなわち原告は昭和二十一年六月に占領軍の労務者として稼動中足場から落ちて、怪俄をしてからは何分老齢のことでもあり、容易に体の調子が良くならずしばらく徒食していたが、何時までも子供の世話になるのも心苦しいところから、昭和二十二年一月から三月までは白木原の占領軍工事を請負つていた納富組に雇われ、一日金五十円の計算で賃金を貰い日傭人夫として雜役に從事したことがある外は、久留米市内の各所で此処に二、三日、彼処に二、三日という具合に雇われ、或る時は人夫として或る時は雨戸や、障子の修繕等の簡單な大工仕事をして賃金を貰つたが老人のことでもあり、一人前の賃金すら貰えなかつたような状況であつた。右のような事情で昭和二十二年中は年間を通じ約百三十日働いた位のものであるが昭和二十三年六月からは家族の者の勧めにより全く仕事を止め、現在では子供に養はれているような有様である。以上の如く原告は昭和二十二年中請負業等、第一種事業税の対象となるような事業を営んだことがないに拘らず、被告は原告を第一種事業税の納税義務者であるとして前記の如く事業税金三千七百五十円を賦課し、異議申立に対してもそのうち、僅か金三百七十五円を取消したのみで、全体として賦課処分の取消をしない。よつて原告は茲に被告に対し右取消されざる金三千三百七十五円の課税処分の取消を求めるため、本訴請求に及んだと陳述し、被告の答弁に対し原告の被告に対する異議申立が事業税の減額請求であつて本訴において主張しているように課税物件の不存在を主張し、全体として課税処分の取消を求めるものでなかつたことは認める。然しながら異議申立において主張したところと、訴訟において主張するところは必ずしも同一であることは必要でないと解すべきであるから、これを理由に出訴権がないという被告の主張は理由がない。その他原告の主張に反する部分はこれを否認すると述べた。(立証省略)
被告代理人はまず訴却下の判決を求め、その理由として原告の主張するところは、自分は第一種事業税の対象となるような請負業等を営んだことはないに拘らず、被告は原告に対し第一種事業税を賦課したが、これは要するに課税物件の存しないところに課税した違法があるから全体としてその取消を求めるというに在る。ところが原告の被告に対する異議申立は單に事業税の減額請求であつて、本訴において主張するところとは全く別のものである。それで右異議申立は本訴を提起するについての適法なる異議申立とは認められないから、從つて本訴は訴訟要件を欠く不適法なものといわなければならないと述べ、本案につき原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として原告の本訴請求原因事実中原告の昭和二十二年における仕事の内容及び原告が同年中請負業を営んだことがないという点はこれを否認し、原告が負傷したか否かは不知、その余の事実はこれを爭はない。而して被告が原告を第一種事業税の納税義務者と認めたのは次の理由に基くものである。すなわち原告は数十年來の経驗を有する大工であるが大体大工というのは或る仕事の完成を約し、相手方から報酬を受けることを業とする者であるからその業種自体からみて当然請負業と認むべきのみならず、原告は昭和二十二年五月頃土木建築請負業者の米光組から棚、箱等の製造を請負つたことがある外、久留米市内の各所で手間請の方法で大工仕事をしたものであることが久留米土木建築組合並びに同業者についての調査の結果確認されたからである。然のみならず原告は大工業の外に仲介業をも営み相当の収益を挙げていることが明であるが、これを以つてしても原告が第一種納税義務者であることは明であるといわなければならないと陳述した。(立証省略)
三、理 由
本訴の適否につき考えるに、被告は本訴異議申立の理由とは別個の新しい事実を、その請求原因としていることを理由に、右異議申立は本訴を提起するについての適法なる異議申立とは認められない旨主張するが、訴願の理由として主張した事実と、当該行政処分の取消変更を求める訴訟の請求原因事実とは必ずしも同一である必要はない、つまり訴願の理由には別個の新しい事実を以て、当該処分の取消変更を求める訴訟の請求原因とすることは、訴願制度の趣旨から考えて差支えないものというべく、本訴においても右と同趣旨に解すべきであるから、被告の前記主張は採用しない。よつて木案につき按ずる本件の爭点は結局原告の昭和二十二年における原告の仕事の内容及びそれが、請負業その他第一種事業税の対象となるような事業に該当するか否かということである。よつて按ずるに、原告が数十年來大工を業とする職人であつたことは弁論の全趣旨に徴し当事者間に爭がないけれども証人高巣省吾、坂田武、岡與助、清補享、青木要藏の各証言、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を綜合して考えるときは、原告は、昭和二十一年六月頃足場から落ちて怪俄をして以來何分老年のことでもあり容易に体の調子が恢復せず一人前の大工仕事もできないような状態であつたので、昭和二十二年中は一月から三月頃まで白木原の占領軍工事を請負つていた納富組に雇われ、一日金五、六十円の日当を貰い、日傭人夫として雜役に從事し、五月中約二十日位、土木建築請負業米光組の下で箱、机の製造棚の取付等の大工仕事に從事したけれども体の調子が思うようでなかつた関係上その後は隣近所に頼まれて硝子戸の修繕等簡單な大工仕事をして賃金を貰つていたことを認めることができる。被告は原告の右米光組における仕事は請負仕事であつた旨主張し、前顕清補享証人の証言によれば、なるほど右仕事が机一個を完成すれば金何円、箱一個につき金何円というように仕事の出來高に應じて報酬を貰う約束であつたことを認めるに充分であるけれども、ただこれだけの事実を以て原告が業として請負をなす者があつたとはいい難い。又被告は原告は大工を業とする傍ら仲介業を営み相当の収益を挙げている旨主張するけれども、これを認めるに足る証拠がなくその他被告の提出援用に係るすべての証拠にするも、昭和二十二年中原告が第一種事業税の対象となるような事業をした事実を認めるに足るものはない。然らば被告が原告を昭和二十三年度の第一種事業税の納税義務者と認め、これに第一種事業税を賦課したのは明に違法たるを免れないものというべく、本件課税処分の取消を求める本訴請求は相当としてこれを認容しなければならない。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 丹生義孝 入江啓七郎 真庭春夫)